2007年01月06日

田月仙『海峡のアリア』

在日コリアン2世の歌手、田月仙(チョン・ウォルソン)さんによる自伝的な作品です。2006年の「小学館ノンフィクション大賞」優秀賞を受賞されています。

昨年の暮れに購入して一気に読了したのですが、今日改めて再読しました。この間映画『パッチギ!』を見たことも影響しているけど、私にとって「在日コリアン」というのは、「まっすぐなまなざし」で見つめたいテーマの1つなのです。それは姜尚中氏の『在日』という本を読んでからかな。

語弊があるかもしれないけれど、洗練されているとはあまり形容できない、素朴な文体で語られるその半生は、歌の喜びと「祖国」と「祖国」の間で揺れ動く心の苦悩にあふれ、その事実自体がドラマチックです。

日本の音大受験の時の差別、北朝鮮で歌ったこと、韓国で歌ったこと、北朝鮮へ渡った兄達への思い、「祖国」の歌を追い求めたこと、日本とコリア(←うまくあらわす日本語がないのがもどかしい!)という2つの祖国の間で戸惑う気持ち。

音楽は苦悩を忘れさせてくれた。しかも苦悩を忘れさせてくれる”場所”は皮肉にも祖国ではなく、ヨーロッパという「他郷」であった。
「ルーマニア国立オペラ団の素晴らしい共演者とスタッフに囲まれて、私は思い切り歌い、踊り、演じることができた。鳴りやまぬ拍手と華やかなカーテンコールの中で、舞台人として私は幸せだった。
そこには国や民族、政治や思想を越えて共有できる感動があった。
音楽の力はなんて素晴らしいのだろう。(246ページ)」

そんな彼女だが、2つの祖国を持つからこそ、祖国への情愛は誰よりも深い。
「私の二十数年の歌手人生は、日本と朝鮮半島の狭間で揺れ動いた年月であった。
それは一人の人間として、自己の存在を確かめるための果てしない旅でもあった。故郷日本でありのままに生きたいという思いは、常に目に見えない何かに阻まれ、私の心の隅に追いやられていった。あきらめにも似た感情と違和感の正体を追い求めて、私は生きてきた。
投げやりになり、失望しかけたとき、優しく差し伸べられた手に何度も救われた。その手は母のものであり、私を育てた日本、そして苦悩する朝鮮半島そのものであった。(中略)
いつの頃からか私は、二つのふるさとへの切ない愛を歌っていた。(261ページ)」

私が住んでいるこの日本という国が内包する在日コリアンという存在について、日本人とも韓国・朝鮮人とも違う彼ら彼女らが抱える歴史と心について、在日コリアンという隣人達の祖国でありまた私にとっての隣国である「朝鮮半島」について、知ることを放棄してはいけないのだと感じさせられる力ある作品でした!
posted by はな at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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